【JCRC2024】予選会への参加報告と焙煎プロファイルを公開!
2024年10月21日、奈良県天理市の第一電化社本社で行われた、SCAJ主催のJapan Coffee Roasting Championship(以下、JCRC)予選会に参加してきました。
JCRCといえば、ロースティング・コンペティションとして、世界大会まで通じる国内最大規模の大会です。
今回は参加者枠の人数が例年より大幅に拡大され、全国から名だたるロースターたちが集った予選会となりました。
今年は何と言っても、世界で注目を集めている焙煎機「Strong Holdシリーズ(以下、SH)」S7Xを使用した国内初の大会。
大会ご関係者皆様、ご多忙の中、事前事後のご準備、本当にありがとうございました。
JCRC予選会の競技内容と課題豆
予選会の競技内容
予選会では決勝と違いグリーングレーディングなどは行われず、競技直前に共有される生豆を制限時間内(1時間)に指定焙煎機でいかにうまく焼けるかを競うものです。
そして、審査員によってカッピングスコアシートに記録された点数のオーバーオールが高い競技者の上位6名のみが決勝に進めます...なんとも厳しい世界...
ただし、今回からこれまでの指定焙煎機がギーセンからSHに変更された最初の年。
番狂わせがあるのでは?とのSNSでの声も見かけました。
Strong Holdの最大の特徴
このSHシリーズの最大の特徴は、間違いなく熱源が3つ存在していることであり、それらを焙煎中に自由にコントロールできることです。
- 熱風 【Hot Air】
- 放射熱 【Halogen】
- 伝導熱【Drum Heater】
これらは全て熱源ではあるんですが、前提として熱風がメイン熱源で、以下の二つはあくまで補助的な立ち位置です。
近年、熱風式の焙煎機が急速に普及しているので言及不要かと思いますが、その他の半熱風式、直火式と比較して、余計な焦げ付きを起こしにくく、フレーバー優位の焙煎ができることが特徴です。
では、補助熱源では何ができるのでしょうか?
ハロゲンの性質
豆内の水分に直接働きかけるため、豆表面の焦げ付きを起こしにくい。ただし、過度な水抜きは成分の発達を妨げるため、ベイクドな穀物感を伴う可能性もある。
伝導熱
言うなれば、フライパンの温度なので、豆とドラムの設置時に表面へ直接熱を加える形です。その代わり、焙煎由来のボディ感を与えることができる。
ハロゲンによる熱源は、直接豆内の水分に働きかけるため、余分なスコーチ(焦げ付き)などを防ぎながら、生豆内の水抜き工程、成分発達を促すことが見込めます。
あと、ドラム温度のコントロールができるのも大変面白い要素で、熱風式で出しにく質感の強弱ができそうですね。
これらをロースターがどう扱うかは一人の焙煎士としても非常に興味深いです。
ちなみにSHシリーズはまだ国内でも導入している事業者は少なく、練習会も大変短い時間だったため、ぶっつけ本番の焙煎士も多かったのではないでしょうか?
(僕もその一人でしたが...)
課題豆情報
予選会も終わり、課題豆情報がローストマスターズ委員会から公式に世間に公開されました。
今回の課題豆はなんとブラジル!!
聞いた時は、「うわー、なるほどな〜」と心の声が外に漏れちゃいました。
本来であれば標高が低くアロマ、フレーバーは出にくい生産国ではあるので、ブラジルの浅煎りは日向珈琲でもこれまで一種類のみです。
今回の課題豆は標高は1,270mとブラジルの中では高く、水分値も高い方でしたが、こればっかりは焼いて見ないとわかりません。
低標高の浅煎りはグラッシーな青臭さやポップコーンのような穀物が非常に出やすいため、過度な水抜きやカロリー不足があると即ネガティブが出ます。
焙煎はポテンシャル以上のものを引き出すことは当然できないので、ネガティブを減らし、焙煎由来の味わいを加えていくことも視野に入れる必要があるかもしれませんね。
腕が鳴るところですね。
今回のローストデザインと実行したプロファイル
品種がカトゥアイでブルボン系、精製がパルプドナチュラルということで、しっかりとカロリーを当て成分発達をさせつつ、スウィートに寄せていく方向性でプロファイルを組むことにしました。
浅煎りでフレーバー優位の焙煎するなら、短時間高温で一気に焼き上げるのが基本で、おそらく大会出場者の方の大半はそういったプロファイルを設計しているはずです。
ただし、そういった焙煎設計は同時に質感や甘さは控え目になる性質もあるため、今回の課題豆を見て、その辺りも抑える焙煎をしなさいと言われているような気がいたしました。
ということで、ベースは短時間高温で構成し、デベロップメントフェーズ(1ハゼから煎り出しまで)をスコーチを起こさない程度に少し長め確保することに決定。
なので、ものすごくザクッと言うと、前半戦から中盤にかけてはしっかりとカロリーを入れて、後半1ハゼ近辺で火力を落としてタイミングをみて排出といった感じでしょうか。
そこにSHの変速でネガティブ因子を減らす調整をして、フレーバーを引き出しつつ、最後に甘さを拾い、クリーンも確保ができたら理想的です。
ここはまさにSHの特長を最大限活かすべきポイントでしょう。
デベロップメントフェーズを伸ばすことは、豆表面の焦げ付きを起こすリスクが高いので、フェーズ入り直後に火力を落とし、さらにドラム回転 【Bean Agitation】を攪拌の程度も最大まで引き上げる。
そして、上記の内容を意識した結果、テストロースト後の2バッチ目で以下のようなプロファイルで焼き上げる形となりました。
提出した豆の焙煎プロファイル
(画像タップでスプレッドシートを確認できます。)
実際に使用したHDの初期設定値
- 熱風 【Hot Air】→10(10)
- 放射熱 【Halogen】→6(10)
- 伝導熱【Drum Heater】→4(10)
※()内はパラメーター最大値
焙煎作業中に意識したこと
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投入温度を上げ、序盤から熱風で最大限のカロリーを加える
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過度にハロゲンを使用せずカラーチェンジに向けて徐々に上げる
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カラーチェンジ近辺ではハロゲンは抑え、ベイクドを避ける
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ドラムヒーターは質感を高めるために固定で中程度を維持
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ドラム回転速度は色付き初めで最大に上げてスコーチを防ぐ
- ハゼ直後に熱風を一気に下げ、デベロップメントタイムを少し引き伸ばす
極力、変数を減らした方が焙煎工程自体は複雑にならなくて済むのですが、今回は結果的にドラムヒーター以外は、道中もパラメーターを変更する内容になりました。
操作が複雑になりましたが、 ストロングホールドだからこそできる表現領域ではないでしょうか。
そして、言い忘れていましたが、生豆の投入量は配布量1kgを3分割した333gで投入でした。
投入量も攪拌の程度やボトムへの影響が大きいため、非常に重要な要素です。
本当は500gくらいは入れたかったのですが、1バッチ目のテスト焙煎も考えての投入量となりました。
この辺りはコンペティションの条件に合わせた調整ですが、実際の焙煎で制約がなければ、投入量も検討すべき内容です。
でも、SHの場合はカロリーさえ確保できれば、攪拌の程度はシステムでコントロールできるので、投入量の影響も気にしなくて良さそうですね。
カップコメント バッチ#2
Red apple, a bit cherry, roasted armond, caramel, smooth
りんごとアーモンドが特徴的で穏やかで飲み心地のいい味わい。
狙い通りカラメルらしい甘さ、口当たりの良さを感じましたが、審査時点でネガティブに変わっていないといいですね。
制限時間の関係で冷めた時のカップをちゃんと取れなかったのが悔やまれますが、#1のテストローストが想定と違い絶望的だったので、#2をカップした時はなホッとしました。
心残りがあるとしたら、ソーティングの時間が短くなってしまったことでしょうか。この辺りは時間戦略の部分ですね、「もう1バッチいける!」なんて欲が出ました(笑)
ちなみに#3は時間ギリギリで焼いたものの、提出まで準備が間に合わなかったのですが、全て最大火力で短時間で焼き上げてみたら、ちょっと酸に刺激を感じたので#2で提出。
いずれにしても個人的にとても刺激的な焙煎時間でした。
もしかしたら、SHに関しては、従来の焙煎プロファイルから一度離れてみるのもいいかもしれません。
そのくらい体感で異質であり、検証し甲斐のある未来のマシンだと感じました。
最後に
JCRC2024予選会で使用された生豆はWATARUさんが協賛だったので、この記事を書きながら課題豆と同じものを購入させて頂きました(笑)
よかったら11月の定期便にこちらもねじ込みますので、ぜひ一緒に楽しんでやってください。特に縛りもなしです。
・・・
さて、今回、コンペティションに出場した内容を公開することにしましたが、本来こういった内容は公にすることは少ないのではないでしょうか。
このプロファイルを見たからといって、同じような焙煎ができる訳ではなく、やはり人の感性が必要な部分が大きいと思っています。
実際、予選会内の焙煎の中で豆の現物を見ながら、短時間ながら模索していった結果のプロファイルですしね。
個人的には新しい焙煎機でより技術革新を感じ、プロファイルを含めた情報の共有やコミュニケーション、コミュニティ形成が今後重要だと感じたので、記事にして見ました。
これを機にいいご縁があると嬉しいです。
ちなみに結果は10/28(月)正午発表だそうなので、分かり次第追記予定です。
ご精読ありがとうございました。