11〜12世紀頃、ペルー南部の標高約3,400mの高地に築かれたインカ帝国の中心都市クスコ。ケチュア語で「へそ」を意味するこの地は、インカ帝国の交易拠点として重要な役割を果たし、帝国全土をつなぐインカ道の要所でもありました。16世紀にインカ帝国が滅びた後も、精巧に組み上げられた石造りの建物が多数残り、クスコの旧市街は1983年に世界文化遺産として登録されています。マチュピチュへのアクセス拠点としても知られるクスコは、インカとスペイン統治時代の遺産が色濃く残るため、ペルーを代表する観光地となっており、国内外から多くの観光客が訪れています。
スペイン統治時代に始まったとされるコーヒー栽培は、ペルーの南北に広がるアンデス山脈沿いに発展しました。クスコからプーノにかけての南部地域は、小規模な農家が中心となり、農協を通じてコーヒーが流通しています。北部に比べると生産量は全体の5%ほどと少ないですが、厳しい環境がもたらす豊かな土壌で栽培されたコーヒーは、北部とは異なる風味を持ち、重厚で華やかな味わいを楽しめる隠れた名産地として評価されています。
世代を超えて受け継がれるティピカ種
パランカナヨ農園を営むマルシアル・クカパ氏は、標高3400mのクスコから北東に下った標高2000mの谷あいに位置するパウカルタンボで暮らす小規模農家です。パウカルタンボの町自体は標高3000mほどにありますが、彼の農園はそこから1000m下った場所に広がっています。マルシアル氏は両親から農園を引き継ぎ、25年以上にわたりコーヒーの栽培を続けているケチュア族の生産者です。ケチュア族はインカ時代からこの地に根付いて暮らし、コーヒー栽培の文化を築いてきた先住民です。約3ヘクタールの農地で年間20袋ほどのコーヒーを生産し、ジャガイモやアボカド、ユッカ、柑橘類なども栽培して生計を立てています。
この地域では古くから、自然環境や水資源の保全を大切にするという考えが根付いており、コーヒー栽培だけでなく、文化遺産を守ることも重視されています。マルシアル氏の農園にあるティピカ種のコーヒーノキは、父から受け継いだ大切なもので、近くの自然保護区との共存を意識し、動植物の恩恵を受けながら大事に育てています。
最高のコーヒーを目指して
パランカナヨ農園では、7月から9月にかけて収穫が行われます。クスコ周辺では、かつては農協を通じてコーヒーを卸していましたが、近年、スペシャルティコーヒー市場の拡大に伴い、品質の高いコーヒーは個別に高値で取引されるようになっています。生産者たちは、品質向上のために農業指導を受けたり、栽培方法を見直したりするなど積極的に取り組んでおり、マルシアル氏も収穫時の選別や熟度の確認、水洗式の加工、乾燥や保管など、すべての工程にこだわり、品質向上に努めています。収穫から保管までの約4か月間、細心の注意を払い、発酵や乾燥などのプロセスに時間をかけています。
毎年、最善を尽くして育てたコーヒーが、自分の農園の名前でスペシャルティコーヒーとして楽しんでもらえることに、マルシアル氏は大きな喜びを感じています。彼の農園から生まれる最高のコーヒーを、ぜひお楽しみください。